Daily Archives: 2012年3月16日

小虎の心臓 ② - PDA 猫の動脈管開存症

以下の記事は全く医学的専門知識のない一飼い主が、獣医師との会話や本・インターネットで集めた情報を元に、個人の記録としてまとめたものです。書かれてあることには医学的に間違ったことも含まれているかもしれませんのでご了承ください。
①(昨日の記事)の続きです。よかったら最初からお読みください。
2010年12月8日、隣町の心臓専門医を訪れました。予約をしていたにもかかわらず、急患が入るなどして2時間くらい待たされましたが、その専門医は麻酔をせずに小虎を超音波検査し、とても丁寧に説明してくれました。
ものすごい早口の先生なので、聞き取るのが大変でしたが、相方が一緒にいたので後から相方がきちんと紙にまとめてくれました。その専門医は、専門用語で分からないところがあるとそれもきちんと説明してくれました。少しの嫌な顔も見せず。この先生は信頼できる、と思いました。

トラさんウメさんの日常

私たちが掛かりつけだった獣医から得たものは単なるDiagnose(診断)であり、Prognose(予見・見通し)ではないと専門医にいわれました。(掛かりつけだった獣医は、Diagnose(診断)すら正しくしていなかったことになりますが。)
専門医は、改めてDiagnose(診断)を下し、Prognose(予見・見通し)を行いました。それは今後どうするかの方針、どうすれば状況が良くなるか、という提案だったのです。小虎がこれまで処方されていた薬、フォルテコールには、状況をなんとか今の状態に保つことしかできていませんでした。掛かりつけだった獣医にずっと通っていたら、なんら詳しいことすら知らずにある日突然小虎を失っていたことでしょう。
後から分かったことで、これも私たちを慰めたのは、それでもそれ(フォルテコールを与えること)がおそらくできる限り最善の方法だった、と言うことです。

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小虎の肥大型心筋症(Hypertrophe Kardiomyopathie)の原因は、先天性の「動脈官開存症(Persistierender Ductus Arteriosus / Patent ductus arteriosus、以下PDA)でした。
PDAとは。本来、人間でも動物でも、心臓から肺にいく動脈管が、生後すぐに閉鎖するのですが、それが閉鎖せずに開いたままになっている心臓病のことです。

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胎児の間、動脈管は大動脈と肺動脈を結び、胎児は肺を使わず酸素を取り込むため、心臓から肺への血液の流れをほとんど必要としません。そのため、無駄な回り道をしないように動脈管があるのです。生まれるとすぐに肺呼吸が始まり、血液の流れが変わるため、必要のなくなった動脈管は生後1週間の間に普通は閉じるのです。しかし、それが閉じずに開いたままになっているのが、このPDAなのです。

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左側は正常な心臓・右側はPDAのある心臓

PDAの場合、血液の流れが大動脈から肺動脈に戻ってしまうため、肺に大きな負担がかかります。そのため、肺に一定以上の水が溜まってしまう、肺水腫などの症状が現れることになります。肺水腫がひどくなると心不全になってしまいます。
なぜ心肥大がおこるかというと、血液が逆流することによって心臓が圧迫され、そのリアクションとして心臓がその逆流に耐えられるように徐々に心筋を強化することによって左心室が肥大してしまうのです。心筋が厚くなると心臓の弁がうまく機能しなくなります。弁がうまく閉じたり開いたりしていないため、心雑音が聞こえるのです。(どのような心雑音か、こちらのサイトで音を聞くことができます。ドイツ語ですが、スクロールして下のほう、Kontinuierliches Geräusch: und mit PDAというところをクリックしてみてください。小虎の心雑音はまさにこの音でした。)

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PDAは犬に多く、猫では珍しい病気だと言われています。実際、インターネットで調べたときも、犬では多くの症例が見つかったのですが、猫ではほとんど検索に引っかかりませんでした。
専門医が言うには、猫の場合は犬と違い、自分で行動を制限したりすることで、うまく肺に負担がかからないような体勢を取ったりして調節しているとのことでした。なので、猫の場合はそう早く肺水腫の症状が現れないそうです。
専門医も言っていましたが、インターネットの情報によると、PDAをそのまま放置しておくと、長くても3年くらいしか生きられないだろうと言うことが書かれてあります。人間の場合は多くの場合、生後すぐにいろいろな検査をすることで、PDAを早期に発見することができ、見つかれば生後2,3ヶ月の間に手術し、その後は普通に生活することができるということでした。

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小虎の場合、家に来た時点ですでに生後4,5ヶ月でしたので、生後すぐの手術と言う選択肢はなかったわけです。成長してからの手術もできることはできますが、成功率は生後すぐのそれと比べると低いそうです。
また、小虎のPDAはすでに大きくなっており、さらに専門医に見せた時点で肺に水が溜まっているということを言われました。これは致命的なことだったと思います。そのような状態であるのに、少しもつらそうな様子を見せない小虎に専門医は驚いていました。本来ならばかなり苦しいそうです。小虎がこれまで現状維持できたのは、ずっと飲ませ続けてきたフォルテコール(血管拡張剤)のおかげもあるだろうとも言っていました。
猫は病気がかなり進行するまで症状を表にあまり出さない、ということを改めて思い知らされました。

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小虎にも、手術という選択肢があるにはある、ということを言われました。
小虎の場合、手術によってPDAを閉じると、肺にそれ以上の負担がかからなくなるため、肺水腫の危険は免れます。心臓はいくらかは小さくはなりますが、しかしながら完全に元に戻るわけではありません。手術後も薬は飲み続けなければならないだろうということを言われました。しかし、状況は随分改善されるかもしれない、とも言われました。
このまま手術せずにいると、後1,2年の命かもしれないと言われました。それより早くなる可能性もある、と。

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手術には二つの方法があります。一つは開腹手術によってPDAを縫ってしまう手術。その場合、心臓自体にメスを入れるため、負担はかなり大きくなります。もう一つはPDAの穴にコイルを入れてふさぐ方法です。その場合はカテーテル手術となります。(コイルとはどんなものかの写真がこのサイトにあります。ドイツ語ですが写真を参照ください。)
私たちがそのとき訪れた専門医は、前者の手術ができる、と言いました。開腹手術のほうです。一方、私たちの引越し先、今住んでいる町の近くの大学病院には、もう一方の手術ができる専門家がいるという話でした。
その日、2010年12月8日は、とりあえずの肺水を取り除いてしまわないことには手術もできないため、フォルテコール(血管拡張剤)にあわせて利尿剤(Dimazon)と心臓の動きを助ける強心剤(Atenolol)を処方されました。

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その一週間後の12月15日と、さらに23日にも、利尿剤の働きを見るために専門医で検診を受けましたが、残念ながら期待したような変化はありませんでした。そのため、現状で手術をするのは無理だと言われました。肺の水が減り、心房が少し小さくなり、また血液の流れにリズムが戻る必要がある、と。
手術は前回も言われたように、いずれにしろリスクが高く、手術中に命を落とす可能性もあるかもしれないと専門医は言いました。しかしながら手術をしないと、1,2年のうちに小虎は肺水腫で苦しむことになり、その場合は別の選択肢(安楽死)も考慮に入れなければならないかも知れないとも言われました。あるいは、もっと早くに突然死んでしまうこともあるかもしれないとも。

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手術ができるような状態になれば、手術をするなら早いほうがいいが、するかどうかの選択はもちろん飼い主であるあなたたちに委ねる、と言われました。
もしカテーテルでコイルを入れる方法を、引越し先でするならば、そこの専門医に紹介状を書く、と言ってくれました。
ただ専門医は最後に、正直な話、このような事例は猫ではこれまでに1,2件しかなく(ドイツで)、そのため成功するかどうかの統計が少なすぎる。もしこれが僕の弟の飼い猫なら、僕は弟に手術を勧めないだろう、と洩らしました。
結局、専門医の診断は正しかったわけです。小虎は手術することもなく、それから3ヵ月後に旅立ってしまいました。

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③につづく。